[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
久しぶりに元親が中国に来たので、元就は彼と共に砂浜を散歩していた。
そんな時、ふいに元親はこう言った。
「死ぬってなんだろうな」
元就は一瞬だけ目を見開いた。何故こんなことを言うのだと思考をめぐらせた。
「何を、言うておる」
「うん。今何言ってんだろ?」
あははと元親は笑う。彼は明るく振舞ったつもりだが元就には悲しい笑顔に見えた。
「何で、この時代に生まれたんだろうって思うんだよ」
元就は聞きたくなかったが、彼の悲しみや苦しみが和らぐならばと静かに聞いていた。
「ずっと幸せにいられたろうに」
元親は俯いた。元就は彼が幼少の時のように泣いていないかと少し心配になったが、しばらくするとぱっと元親が顔をあげたのですぐにその心配は消えた。消えた、が。
「いっそ、この海で死んじまうかい?」
その言葉を元就が理解するまでに元親は元就の白く細い腕をとり、海の中へざぶざぶと勢いよく歩いて行った。
「おい!我は貴様と入水など・・・!!!!!」
塩っ辛い海水がふたりの着流しを濡らし、足取りを重くさせる。けれど、先導の元親のそれはまったく劣らずずんずん進んでいく。
「ばっ馬鹿者!!!我はまだ死ぬわけにはいかぬ!!!!!おい、聞いているのか、元親!!!!!!!」
綱引きのようにぐいぐいと元就は元親を引っ張るが、びくともしない。こいつが姫若子だと誰が言うたと元就は彼の男らしさを恨んだ。
だが、次第に抵抗することに疲れる。純粋にただ元就は感じた。このまま死んでしまうのは本望なのかもしれぬ。
だが、死ぬのはこわい。
幼子が幽霊に怯えるように。強く。恐れのあまり脂汗が吹き出し、歯が鳴る。身体も震えた。
「死ぬ、のか」
つうっと熱いものが頬を伝った。この歳になって泣くなど情けないと思ったが止めようとしなかった。
元親が元就の異変に気付き振り向く。あっと驚いた顔をした元親の目にはもう涙が浮かんでいた。
「あ、ああ。ご、ごめん・・・。ごめん元就、ごめん」
今まで強く掴んでいた元就の腕を元親が離すと、そこにはくっきりと元親の手の痕が残った。何て痛々しい痕なんだろうと、元親は涙でぼんやりとする視界で見て思った。
痛々しかったので元親は優しく手を握ってやる。すると微かに元就もゆっくりと手を握ってくれて、ただそれが。
人生で一番幸せだった。